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すれ違いを忘れた現代人に寄す

こんばんは、圭です。

皆さま、携帯電話って持ち歩いていますか?

「あたしスマホだからー、ケータイなんてそんな古いもの持ってなーい☆」

というひとには土俵から下りていただくとして。

いつでもどこでも、連絡をとりたいあのひとにメッセージが届けられる、そういう電子媒体。
持ち歩いていますか?


※ちょっと長いので分けます。











金曜日。
仕事を終えて帰ろうとしたとき、わたしは思い出しました。

今日の夜は、両親仲良く留守だ。
ということを。

てことはだ、まっすぐうちに帰ればひとり飯。





よし、あきらさんを誘おう。外ごはんふたり飯を提案してみよう。

しかしこの日、わたしは携帯電話を持たずに出勤しておりました。
以前よりは持ち歩くようになったとは言え、いまだに携帯電話を携帯するのは嫌いなのです。
いつでもわたしと連絡がつくとおもうなよ!という自己中心的なアナログ根性。



そこで。


【関門1】
公衆電話を探せ。

お、簡単に見つかった。ラッキー。

関門1、あっさりとクリア。



【関門2】
彼女の電話番号は?

はっはっは、もちろんあたまに入っているさ。

交通事故にでも遭って、意識はあるけど動けないなーんてことが起こったとき、「電話してください…あきらに…番号は…」って諳んじるためにね。
というのは嘘ですが。覚えてるのはほんと。

関門2、難なくクリア。



【関門3】
彼女は電話に出るだろうか?

いま彼女の携帯の液晶画面には、「公衆電話」と表示されているはず。
「非通知」とならびうさんくさいこの電話、あなたは出てくれるだろうか。

「もしもし」

出たあーっ!

関門3、運よくクリア。



【関門4】
手持ちの小銭130円で通話を終えよ。

130円。
何分くらい話せるかしら。用件は言い終わるかしら。


「こんばんは、圭です。今日は携帯を家に置いてきたから公衆電話からかけてます。小銭が少なくて、途中で切れたらごめん。もう夕飯は済みましたか、もし良かったらいっしょに食べませんか、あきらさんちまで行ってもいいよ」

ここまでで15秒。

「公衆電話だから出ようか迷ったけど出てよかったよ、よくあたしの番号覚えてたね、うちはいま壊滅的に散らかってるから来ちゃだめだよ、車で迎えに行くから外ごはんにしようよ、シャワー浴びてから行きたいから30分くらい時間つぶして。○○通りのタリーズは、この時間でも開いてる?」

どうだいこのむだのないレスポンス。
あきらさんは的確に空気を読んでくれたね。

「もし開いてなかったとしても、30分後にはタリーズの前にいるようにするから、そこで会おうね」

約束成立。
受話器を置きます。100円玉1枚で事足りました。

関門4、無事にクリア。


さ、あとは。
待ち合わせ場所、ドトールに向かうだけです。



【関門5】
ふたりは無事に会えるのか?

あ、圭、こいつ、待ち合わせ場所を間違えたな? とおもったひとは、ちっちっち、あまい。
 
あきらさんが指定した○○通りに、タリーズはないのです

そしてわたしは、ないってことを知っていた。
と同時に、あきらさんがいつも「あそこのタリーズさあ、」と話題にする店が、実際はドトールであることも、知っていた。

だからドトールに向かったのです。
ドトールで待っている、なーんて言ったら、彼女はどこに向かうかわからないからね。
タリーズで待っている、って言っとけば、ドトールに来てくれるだろうからね。

と、どや顔で解説できるのはここまで。
 

あとは8時半にあきらさんが現れてくれるのを待つばかりです。

シャワーをのんびり浴びすぎたり道が混んでたりして遅れても、
あきらさんが「遅れる」とわたしに伝える手段はありません。

出掛けに不意の来客があったり急患が来て職場に駆り出されたりして、ドタキャンになっても、
あきらさんが「行けなくなった」とわたしに伝える方法はありません。


ただ、待ちました。

コーヒー飲みながら、本を読みながら、ときどき窓の外をちらちら見ながら、
あきらさんが来るのを待ちました。

どきどき。
そわそわ。
ひやひや。
わくわく。
 
その時間は、まぎれもなく恋でした。



到着目安の時刻を12、3分過ぎてから、
彼女がこつこつとドトールの窓ガラスをたたいたとき。
 
じわじわと、噎せかえりそうなほど強烈にこみ上げた笑いを、よも忘れじ。
平安の昔から、待恋は歌に詠まれてきたわけだけれど、
そのうちどれほどが、待った末に実った・結ばれた・報われた恋であったことか。

わたくしはしあわせ者である。

関門5、クリア。


 
ところで。
恋愛小説やドラマの脚本を書くひとたちが、口をそろえて言いますね。
「携帯電話が普及しやがってから、『待つ恋』『すれ違いの恋』が描きにくくなった」と。

携帯電話のおかげで、
相手に素早い反応を求めることができるようになったいま。
遅刻しそうになっても、とりあえず「ごめーん遅れるー」と連絡することができるようになったいま。

いまだからこそ。

アナログでとっぽいわたしは、いつまでも忘れないでいたいのですよ。

「待つ」ことが引き連れてくる不安、期待、搏動を。
このバスを逃して待ち合わせに遅れたら、彼女との関係がこわれてしまうかも、という一瞬の焦燥感を。

 

ああもちろん、ふたりで食べたごはんもおいしうございました。



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