« グレーゾーン! | トップページ | 点取り虫の看病 »

ことばを愛するすべてのひとへ

こんばんは、圭です。

最近話題の本を読了。
これはね、もうね、活字の好きな方にはぜひ読んでほしい。
ってんで、推奨記事を書くことにしました。

特に。
あえて名指しはしないけれども、ねえさん、あなたはきっとお好きです。


こちら。


『舟を編む』


※未読のひと向けではありますが、念のため分けます。

 
 
 
 
 
 
 

直木賞作家、三浦しをんの小説です。


大手総合出版社「玄武書房」の辞書編集部が、企画から上梓まで15年をかけて、1冊の国語辞典を生む話。



まずね、わたしはね、題にくらっときたね。

『舟を編む』

いい。
『アーモンド入りチョコレートのワルツ』とかね、ちょっと手を出しづらいじゃないですか。
いや別に森絵都にけんかを売るつもりはないが。

簡潔で、ぐっと胸にせまる。


「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」

「海を渡るにふさわしい舟を編む」(P.27)


よくない? かっこよくない?なんなのもう、悩殺されたわよ。

作中、みなが心血注いで編む辞書は『大渡海』 というのですが、これがまた、フィクションにとどめおくにはもったないような良い名じゃないか。

この辞書を手に、ことばの大海を自在に征く。
そういう使い手が目に浮かびます。



題名から離れまして。

登場人物が、いい。

「要領が悪く、嘘もおべっかも言えず、辞書について真面目に考えるしか能のない」(P.133)まじめ君。

まじめ君の下宿の大家さんで、他室を侵略するまじめ君の蔵書を、「本棚のおかげでウチは頑丈」とにこにこ流すタケおばあさん。

タケおばあさんの孫で、料理一徹の女版・高倉健、板前のかぐやさん。

打ち込めるものをもつまじめ君を、実は眩しく見つめるちゃらっちゃらに軽佻な同僚、西岡。

誰に対してもそっけないが仕事はデキる、怖くないお局、佐々木さん。

辞書監修の松本先生、定年を迎えても辞書編集部に関わり続ける荒木さん。

など。


コミカルに役割付けされているようでいて、現実にいそうな人物たちがいとおしい。

装幀のデザイナーや、辞書用の製紙を担当するひとなどもふくめ、ほとんど偏執的と言っていい仕事人たちの輝いていることよ。



人物だけじゃあない、辞書づくりのプロセスもおもしろい。

「おもしろい」とだけ言っておきますね。
ネタばれはしません。

この本の醍醐味は、読みすすめるにしたがって辞書がかたちになっていくさまを見守りつつ、ほおーと感嘆するところにあるとおもうからさ。

興を削ぐことはしません。



そして雑学が、議論がおもしろい。

辞書ですから、つくる過程でいろいろ議論が湧きます。
また、編集に関わるひとたちは基本的にことばに魅せられているので、日常のふとした瞬間に、ことばについて考察を始めたりします。

これがおもしろい。

「右」の定義は?
「しま」ってどう説明する?
「西行」の項目に載せるべき派生語は?
「あがる」と「のぼる」の違いを、恋愛を例にとって説明すると?

気がつくと膝を乗り出し、検討に加わろうとしているわたしがいました。
落ち着け、落ち着け。


さらに。

「愛」の語義は? 「異性を慕う気持ち」でいいのかな?
「恋愛」は? 「特定の異性に対する…」という表現は果たして適切かな?

さすがBLに造詣の深い三浦しをん、『月魚』や『白い蛇眠る島』を堂々と出版してくれやがる三浦しをん。

疑問を投げかけ、登場人物に熱く語らせます。


振り返れば、わたしが小学生で初めて手にした国語辞典には、
「同性愛」「倒錯的異常性愛の一」と書いてありました。

え、なんでそんなこと覚えてるのかって?
子ども時代の記憶力は侮れないのですよ。

そんでもって、辞書を手にしたマセガキのやることなんてひとつです。

なつかしいなー。
「桃尻」 「春画」 「情婦」 「松葉くずし」 とか引いたなー。
そしていま、これを読んでいるひとが ずさささっと引いたなー。

今はね、「異常性愛」なんて版はないとおもうのですが、
それもやはり、まじめ君たちのようにまじめに語義を検討したひとたちがいて、
時間を積み重ねて、改訂した結果なんですよね。

『大渡海』の「愛」の項目は、どのように決着したのでしょうか。
お読みくださいね。



文体は、かろやか。ぐいぐい読めます。

ちょーっとばかし恋愛要素が鼻につくけれども、
それをはるかに凌ぐのはことばへの愛。あふるる愛。

読み終わったあと、思わず愛用の辞書のページをくってしまいました。

こいつがまあ、「トールキン」を引くと「トルキーンを見よ」って書いてあって、でも「トルキーン」なんて項目はなくて、探してみると「トルーキン」に書いてあったりする憎たらしいヤツなんですが、いい相棒で…

ってそんな話はどうでもいいですね。



まとめ。
ことばに愛着をもつひとは、読まにゃ損です。



三浦しをん 著 『舟を編む』
 
光文社 2011年



にほんブログ村 恋愛ブログ 同性愛・ビアン(ノンアダルト)へ

« グレーゾーン! | トップページ | 点取り虫の看病 »

08.レビューらしき」カテゴリの記事

コメント

よしきた!!

最近「三四郎はそれから門を出た」を購入して
ほくほく読んでいる私が通りますよ。

三浦しをんはいいよねえ。
エッセイは抱腹絶倒。
小説はそら恐ろしさも軽妙さも感動もユーモアも
全部ある。

ちなみに私、3.11の後、「光」が思い出されてなりませんでした。

バレバレでしたね。
反応ありがとうございます、ねえさん。

ヨコさんの『困ってるひと』レビューを読んで、読書の趣味に重なるところがあるかなと期待したので書いてしまいました。

わたしは まほろ⇒風が強く…⇒月魚⇒乙女なげやり⇒白へび と進んだので『光』は読んでいないのですが、読むことにしまーす。決めた。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1169017/43997414

この記事へのトラックバック一覧です: ことばを愛するすべてのひとへ:

« グレーゾーン! | トップページ | 点取り虫の看病 »